【Speech Link通信 #1】失語症×生成AIの最前線、今月のハイライトをお届け!

こんにちは、Speech Linkチームです!
支援者のみなさまへ、今後定期的に「Speech Link通信」をお届けしていくことになりました。
第1号では、いま最も注目されている話題を、私たちの視点から読み解き、さらに、開発の進捗やイベント報告、現場からの声もお届けします。
今月号のトピックス
・今月の注目ニュース:『対話型AIと失語症、情報処理のパターンが類似』2025/5/23 日本経済新聞より
・Speech Linkの開発進捗(5月)
・今月のコラム

対話型AIと失語症、情報処理のパターンが類似 日本経済新聞から
📌 サマリー
東京大学の研究によれば、ChatGPTのような対話型AIは、失語症のある方と似た「ことばのつまずき方」をすることがわかってきました。これは偶然ではなく、AIと言葉の再学習において、本質的な共通点があるということ。Speech Linkでは、そんな“人間らしさ”を持ったAIを、言語リハビリの伴走者として活かそうとしています。
AIと失語症に「似たところ」がある?
「AIと失語症が似ている」──そんな話を聞くと、少し意外に感じるかもしれません。
でも、東京大学の研究チームが明らかにしたのは、ChatGPTのような対話型AIが、文の意味や文脈をうまく理解できない場面で、失語症のある方のつまずき方とよく似た反応を示す、ということでした。
たとえば「犬が猫を追いかけた」という文。
「どちらが追いかけたか?」という問いに、AIが間違った答えを返すケースがあります。これは構文と意味の統合がうまくいかないからで、ウェルニッケ型失語と呼ばれるタイプと共通する特性です。
AIは、正しさより「寄り添い力」で使える
これは、Speech Linkが目指している方向にとって、とても大きな意味を持ちます。
AIは“完璧な教師”ではありません。むしろ、一緒に試行錯誤してくれる“共学者”のような存在です。
失語症のリハビリに必要なのは、正しい答えを押し付ける相手ではなく、何度でも対話しようとしてくれるパートナー。
少し変な返しがあっても、言葉を発するきっかけになれば、それは十分に価値あるやりとりです。
Speech Linkが描く“共進化”の未来
Speech Linkでは、対話型AIを「毎日の練習の相手」として使いながら、回復のプロセスを記録し、最適な支援方法を学習していく取り組みを進めています。
人間のリハビリとAIの学習が、互いに影響し合いながら前に進む──
それが、わたしたちの考える「言葉を取り戻す新しいカタチ」です。
【参考文献】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG2168C0R20C25A5000000
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00410.html
https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/advs.202414016

Speech Linkの5月の進捗
5月は、Speech Linkにとって「外への発信」が進んだ1か月でした。
✅ 全国紙の取材を受けました
媒体名はまだ公開できませんが、失語症×AIという新しいテーマでの社会的意義を評価していただきました。近日中に記事として公開予定ですので、改めてご案内します。
✅ βテスト、まもなく開始
6月中旬より、Speech Linkのクローズドβテストを順次開始予定です。
少人数での運用から始め、当事者・STの方々と共に改善を進めます。今後の正式リリースに向け、重要なステップです。βテストの開始まで、もう少々お待ち下さい。
✅ eWoman「ダイバーシティ円卓会議」に登壇
5月には、eWoman主催のダイバーシティ円卓会議に登壇し、Speech Linkの試みを紹介しました。医療・教育・技術と、さまざまな分野を横断するプロジェクトとして注目を集めています。ぜひご覧ください。

今月のコラム
失語症回復への希望を伝える – 言語聴覚士からのメッセージ
はじめまして。言語聴覚士の多田紀子です。私は2019年からオンライン言語リハビリ「ことばの天使」を開始し、これまでに延べ350名以上の失語症・高次脳機能障害の方々にサービスを提供してきました。そして2020年からは、失語症・高次脳機能障害の方の就労をテーマにしたインタビュー冊子「脳に何かがあったとき」を毎月発行し続けています。
「6か月プラトー説」は事実なのか?
オンライン言語リハビリ「ことばの天使」でも、退院時に「失語症はこれ以上改善しません」と告げられた方が何人もいらっしゃいます。しかし、リハビリを継続することで着実に回復されています。
「回復は半年間」という説明は、実は医療行政上の都合に過ぎず、エビデンスに基づいたものではありません。そもそも、失語症に関していえば、数十年前から長期回復についての論文が多数あります。
臨床40年近くの浮田弘美先生は、「失語症の回復に限界はない。限界があるのは、私たちセラピストの関わり方です」と言います。つまり、「回復しませんよ」という言葉は、私たち専門職の言い訳ではないかと思います。
ことばの呪縛
病院では予後予測として「このくらいまでしか回復しない」という「予測」を伝えます。しかし、実際にはこの予測はあまり当てにならないものだと実感しています。「ここまでしか回復しない」と言われるから、本当にそこで止まってしまうのではないでしょうか。
心理学の研究では、高齢者に「加齢とともに記憶力が低下する」という暗示をかけると、記憶力テストの成績が顕著に落ちることが示されています。言葉の力は、それほどまでに強いのです。
新しいリハビリの形「Speech Link」
私たちが開発中の「Speech Link」は、AI×言語聴覚士のハイブリッドリハビリアプリです。オンライン言語療法の経験と知見から生まれました。生活に戻った100名以上の失語症の方々との関わり、そして数多くの当事者インタビュー調査を通じて得た「希望の根拠」を、最新のAI技術と組み合わせています。
「呪いの言葉」ではなく「希望の言葉」を届け、その希望が実際の回復につながる確かなサービスを提供する。これが「Speech Link」に込めた私たちの想いです。
いかがでしたでしょうか?
みなさまのご感想やご意見を、ぜひお聞かせください。
このレターは、私たちにとって支援者のみなさまとの大切な対話の場でもあります。
また、「この情報が役に立ちそう」と感じられた方は、ぜひご関心のありそうな方にお送りいただけますと幸いです。
失語症×AIの取り組みを、もっと多くの方に知っていただければ嬉しいです。